かみさまの失敗作
「私はこの者を危険人物と見なし、一切の権利の剥奪を要求する」 「私はそれに加え、『流刑』も要求する」 「賛成」 「賛成」 カンカンカン 「静粛に。では最終判決を下す。その者の一切の権利を剥奪し、『流刑』に処す。異義ある者」 「・・・・・・」 「ではこれで法廷を閉じる」
こうして、私の『有罪』は決まった。
かみさまの失敗作
■■デリートの必要条件。■■
あたしはふわふわ落ちながら いろんなことを思い出していた 天上のバラ園 年上の天使たち そして、神さま。
みんなみんな、頭の中から消去(デリート)する。
だってバラはあたしにだけとげを出すし 天使たちはあたしが来るだけで白い目を。 神さまは優しかったけれど それでもあたしを捨てたから 頭の中にある映像の全ては 不必要だと頭が叫ぶ だから消去してしまおう。 あたしは二度と、天上には帰らないのだから。 だけど あたしは神さまが創ったからくり天使で 神さまの失敗作であることだけは 忘れちゃだめって頭が言う だからあたしはそれだけを頭に詰めて ふわふわ落ちて 路地裏に降りつくと眠ってしまった。 気づいたのは三時間後 あたしの前に、サングラスをかけた男が立っていた。
■■サングラスの底■■
「おい」 サングラスをかけた男が離しかけてきた 「なんでこんなところで寝てるんだ?] あたしはあたしの全てを話した 頭に残る、データの全てを あたしはからくり天使で 神さまの失敗作で 流刑に処されたこと。 男は静かに聞いていた 「・・・わかった。それでお前、行くあてあるのか?」 あたしは黙って首を振る 「じゃあ一緒に行くか?] 男はサングラスを取った 美しいガラス玉のような しっとりと濡れた瞳が現れた。
あたしは、この瞳に魅せられていました。
「行く」 我を忘れ 彼の瞳を見つめたままあたしは答えた 「本気か?」 「本気」 「俺、犯罪者だぞ」 「あたしだって流刑者よ」 彼は一瞬きょとんとして 控えめに でも目を細めて笑った 「ちょうどいいじゃん」
■■マイ・フェア・レディ■■
そのかっこ、寒そうだなあ。 そう彼は言って 車でまず来たのは洋服店。 白いノースリーヴのワンピースに裸足だったあたしは 出てくる時、白いコートと 厚手の白いワンピース 白い靴を身につけていた。 「真っ白だね」 「真白だろ、お前」 彼はふっと笑った
真白は彼がつけてくれた名前。 彼は雪が好きな人。 「この小さくて白いの、なぁに?] 「何って雪じゃん。見たことないのか?」 「うん」 「綺麗だろ?」 「うん」 「特に北海道は綺麗なんだよ。あそこは聖地だ」 ここじゃ落ちたらすぐ黒くなっちゃうけどな。 そう小さくつぶやきながら 彼は空を見上げた その横顔が美しくて 薄汚れた地面に その美しい体を投げ出す雪さえ その時のあたしの瞳には入らなかった。
■■ガラス玉の地球■■
彼はあたしに あらゆるものを注いでくれた お金はもちろん 時間も 家も そして裁縫、料理、テーブルマナー 普通の女の子ならば 必要となるであろうことのすべてを 森の奥の湖の近く みはらしのいい小さな家にふたりだけ 世界にはふたりだけだった まるで世界がガラス玉になってしまったように。
続く。
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